これまでは開腹手術で切除していた早期胃がん、早期大腸がんや大きなポリープも、内視鏡技術の進歩により外科的手術を行うことなく、内科的に完全切除できるようになってきました。当院では切除前に最新の拡大内視鏡を用いて病変を詳細に観察してから、治療方針を決定します。内科的治療が可能と判断した場合は、胃病変なら口から、大腸病変なら肛門から内視鏡を挿入し切開剥離術で病変を一括切除します。
当院では我々が開発した「S-Oクリップ」というクリップを使って安全かつ迅速な切除を可能にしています。「S-Oクリップ」は日本だけでなく世界各国でその有用性が報告されています。
“S-O”は当院の坂本直人医師(Sakamoto)と長田太郎医師(Osada)の頭文字が由来です。2008年にEndoscopyという海外ジャーナルに初めて発表しました。
<関連論文>
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- The facilitation of a new traction device (S-O clip) assisting endoscopic submucosal dissection for superficial colorectal neoplasms. Endoscopy. 2008 40 Suppl 2:E94-5.
- Endoscopic submucosal dissection of large colorectal tumors by using a novel spring-action S-O clip for traction (with video). Gastrointest Endosc. 2009 69:1370-4.
- Prospective clinical trial of traction device-assisted endoscopic submucosal dissection of large superficial colorectal tumors using the S-O clip. Surg Endosc. 2014 28:3143-9.
- Large superficial tumor of the colon involving a diverticulum removed by endoscopic submucosal dissection. Gastrointest Endosc. 2015 ;82:751.
< S-O クリップを用いた早期胃がんの切除例>
治療中は鎮静剤を用いて切除しますので苦痛なく治療を受けることができます。また、治療後も外科手術とは異なり傷口が痛むといったことはございません。切除後は食事を食べて問題がなければ退院が可能です。
早期胃がんや早期大腸がん、大きなポリープが見つかった場合は、消化器内科の担当医または、内視鏡治療担当の中津外来までご紹介、ご相談ください。患者さんに最もふさわしい治療法を提供します。
消化器内科の坂本直人先任准教授が「Best Doctors in Japan 2020-2021」(ベストドクターズ社)に選出されました。
消化器内科 先任准教授
坂本 直人
【専門】消化管疾患(消化器疾患における内視鏡による診断と治療)
【専門医】日本内科学会認定内科医、日本消化器内視鏡学会専門医・指導医、日本消化器病学会専門医
ごあいさつ
2021年1月1日付で消化器内科教授を拝命いたしました。私は1984年に大学を卒業し、順天堂医院での内科研修を終えた後に消化器内科に入局し、以来肝臓病学を中心に診療をして参りました。当時、慢性肝疾患の多くは未知のウイルスによるものと考えられていて、その正体が分かったのは1989年になってからのことです。C型肝炎ウイルスと呼ばれるようになったそのウイルスにはインターフェロンという治療薬が使われましたが、その効果は期待されたほどではありませんでした。
私が当院に着任した2004年には、ようやくC型慢性肝炎に対する新しいインターフェロン治療が可能となりました。当時は画期的であったその治療も今思えば十分とは言えず、また、副作用との闘いの連続でもありました。そしてその後10年を経て初めてインターフェロンを用いない「インターフェロン・フリー治療」が認可され、現在では副作用もほとんど無く、95%以上の方にウイルスの排除が可能となりました。2020年のノーベル医学生理学賞がC型肝炎ウイルスの発見に対し授与されたのは記憶に新しいところです。
これまで肝がん(肝細胞がん)の原因の多くはC型肝炎ウイルスと考えられていました。従ってC型肝炎ウイルスの治療が確立したら肝がんは激減するであろうと考えられていたのですが、必ずしもそうではないことが最近分かりつつあります。C型肝炎ウイルスが原因の肝がんが減っていく一方で、原因がC型肝炎ウイルスでもB型肝炎ウイルスでも飲酒でもないという肝がんに対する関心が高まっています。
肝がんに対する治療は急速に進歩しており、昨年だけで新しい分子標的治療薬がいくつか認可されました。肝がんをどのようにして早く発見し、適切な治療に繋げていけるかが今後の課題であり、肝機能検査に異常があった場合にはまず受診するのが大切であるということを、一人でも多くの方に理解していただけるよう願っています。
プロフィール
浜松医科大学1984年卒
【専門分野】肝臓病学、消化器内科学
【取得資格】日本肝臓学会専門医・指導医、日本消化器病学会専門医・指導医、日本内科学会認定医、日本医師会認定医産業医、Fellow of American Association for the Study of Liver Diseases
はじめに
ヘリコバクター・ピロリ菌は、胃十二指腸潰瘍、萎縮性胃炎、胃癌、胃MALTリンパ腫、特発性血小板減少性紫斑病(ITP)など様々な疾患との関連が指摘され、除菌療法を行う機会が増えています。
当院でも2015年7月から12月の6か月間に445人の方の除菌治療を行いました。除菌成績は下記の通りです。
尿素呼気試験の迅速診断について
ヘリコバクター・ピロリ菌の検査方法はいくつかありますが、除菌治療後の効果判定には尿素呼気試験あるいは便中抗原が有用とされています。(日本ヘリコバクター学会ガイドライン2009 より)
なかでも尿素呼気試験は最も精度の高い検査法です。
当院では院内で尿素呼気試験を行っており、検査後60分ほどで結果が判明します。診療所・クリニックで除菌療法を行い、4週間以上経過した患者さんであれば、当院受診後、その日に尿素呼気試験を行い、検査結果をご本人へお渡ししますので、迅速に結果を確認して頂けます。
・初診外来医宛てに紹介状をお願いします。
・検査にあたっての注意事項がありますので、下記をご参照下さい。
ヘリコバクター・ピロリ菌除菌後の尿素呼気試験について
診断薬を服用し、服用前後の呼気を集めて診断します。20分ほどで全行程が終了し、60分ほどで検査結果が判明します。
注≫プロトンポンプ阻害剤(PPI)や抗生物質を内服していると、偽陰性となることがあります。そのため、これらの薬を飲んでいる方では、休薬後2週間経過してから検査を行ってください。
以下の「尿素呼気試験を受けられる方へ(PDF)」は、検査にあたっての患者さん向けの説明となりますので、よろしければ印刷して患者さんへお渡し下さい。
炎症性腸疾患の血球成分除去療法(CAP)について
潰瘍性大腸炎やクローン病をはじめとする炎症性腸疾患(IBD)は若年から発症する慢性炎症性疾患で活動期には生活の質(QOL)を損なうことが特徴です。近年、新規薬剤の登場により治療の選択肢が増えていますが薬剤投与による副作用を完全に払拭することはできません。CAPは薬物投与を行わない治療法で副作用はほとんどなく、即効性はありませんが有効性の高い治療法です。血液中の白血球などを吸着除去したり機能変化をもたらす治療法で、IBD以外にも慢性関節リウマチや膿疱性乾癬など様々な炎症性疾患に有効性が報告され、保険適応があります。この治療は、血液の一部を体外へ連続的に取り出し、活性化白血球を取り除き血液を体内に戻すことで効果を発揮します(体外循環療法)。循環時間は約60分で、1度の活動期につき10~11 回まで実施が可能です。我々は、IBDに伴う腸管外合併症である皮膚病変(結節性紅斑、壊疽性膿皮症)に対する効果も報告しております(図:CAP1クールにより結節性紅斑は消退)。
従来のステロイドで効果が得られにくいあるいは、副作用等でこれ以上使いたくない、もっと減量したい患者さんがいましたらCAP療法の適応です。当院では主に火曜日、木曜日の午後に血液浄化センターで行っていますが、患者さんのスケジュールに合わせて上記以外の時間(土曜日)での対応も可能です。CAP治療終了後は従来通り診療所・クリニックで治療継続ができます。副作用が少ないことは、長期に渡って治療を行わなければならないIBD患者さんにとって大きな福音になると思われます。
適応患者さんがいましたら炎症性腸疾患専門外来にぜひご紹介ください。