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MEDICALCARE

心房細動に対するクライオアブレーションを開始しました!

【心房細動に対するクライオアブレーション】

1.心房細動とアブレーション治療

①心房細動とは

 心臓は、心房次いで心室が規則的に収縮し血液を拍出します。心拍数は自然のペースメーカである洞結節によってコントロールされます。心房細動は、心房が毎分300-600の早く不規則な動きで事実上収縮はなくなり、心室はその際速く不規則な収縮になり洞結節のコントロールは効かなくなります。このため心拍は不規則かつ早くなり、心臓の全体的な機能も低下するため、通常患者様は動悸、息切れを自覚します。心拍数があまり速くない心房細動や、長期の心房細動では「慣れ」により無症状の方の少なくありません。
 心房細動のもう一つの問題は、心房収縮欠如による血流うっ滞と血液凝固、いわゆる血栓形成です。血栓が心内から血液とともに拍出され末梢の動脈を閉塞させると血栓・塞栓症を起こしますが、その多くは脳動脈に起こり心原性脳塞栓症(脳梗塞)として発症します。
 以上より、心房細動の多くの患者様に心房細動そのものに対する薬物療法(抗不整脈薬)と血栓・塞栓症の予防に対する薬物療法(抗凝固療法)が行われていますが、これらの薬物療法は多くの場合一生続ける必要性が高いものです。

②心房細動の機序と非薬物療法(アブレーション治療)

  心房細動は、左の心房(左心房)に肺から血液を送り込む血管(肺静脈)からの異常な指令が左心房の本来の規則的な収縮を乱し引き起こされます。アブレーション治療は、肺静脈からの異常な指令が左心房の規則的な収縮を乱さないように肺静脈流入部周辺の心房の筋肉(心筋)を防波堤のように一部壊死させ(肺静脈隔離)、心房細動発生を抑制する治療です(図-1)。

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 アブレーション治療は、これまではカテーテル先端から高周波を発生させ心筋を点状に焼灼し壊死させ、カテーテルを移動させながら肺静脈流入部を円周状に焼灼することで肺静脈隔離を行う高周波カテーテル心筋焼灼術が一般的でした(図-2)。

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 この方法は有効性・安全性とも確立した非薬物療法で心房細動のアブレーション治療当院や他の順天堂病院でも広く行われてきました。しかしながら、高周波カテーテル心筋焼灼術では前述のようにカテーテルを動かしながら上下肺静脈の周囲を一周焼灼しなければなりません。このため治療に要する時間は2時間半~4時間程度に及び、カテーテル操作に伴う合併症として心血管損傷、特に心タンポナーデ(心臓の傷から漏れた血液が心臓周囲に貯留し心臓を圧迫、ショック状態になる)と血栓・塞栓症(主に脳梗塞)が懸念されます。

③心房細動に対する新しいクライオアブレーション

 本年より本邦で高周波カテーテル心筋焼灼術に加え、クライオアブレーションが認可されました。クライオアブレーションは高周波による焼灼ではなく風船(クライオバルーン)を使用し冷凍凝固壊死を心筋に作成します。これはクライオバルーンにより肺静脈流入部周囲に冷凍凝固壊死を一度に円周状に作成し、これを4本に肺静脈に行うだけで、治療時間も1時間半程度と非常に短く、高周波カテーテル心筋焼灼術のようにカテーテルを細かく移動さえる必要性はなく、やわらかいクライオバルーンを肺静脈流入部周囲に接して行いますので、心タンポナーデと血栓・塞栓症の懸念が少ないと考えられる新しいアブレーション治療です。

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 クライオアブレーションは、現時点で施設認定を受けた病院のみで施行できます。当院では、3名の日本不整脈心電学会認定不整脈専門医を3名擁し、トレーニングを受けた臨床工学士やクライオアブレーションが可能なカテーテル検査・治療室も備える上、施設認定に必要な「1年間30症例以上の心房細動カテーテル治療施行」は既にクリアできており、9月16日よりクライオアブレーションを導入致しました。

 前述のように心房細動の治療は薬物療法が基本ですが、アブレーション治療を行わない場合恐らく薬物療法を生涯継続する必要性がある一方、心房細動を完全に抑制することは困難でしょう。アブレーション治療のメリットは、心房細動を根治させ将来薬物療法から離脱が可能であることです。高周波カテーテル心筋焼灼術も非常に有効かつ安全なカテーテル治療でありますが、最近の研究では高周波カテーテル焼灼術による治療の心房細動再発率は15~25%程度、クライオアブレーションでは5~15%程度とされます。また合併症は、心タンポナーデが0.8%、脳梗塞が0.3%との報告です。

 今回当ハートセンター循環器内科では、クライオアブレーションというさらに安全かつ有効な心房細動に対するアブレーション治療が治療法のオプションに加わりました。心房細動でお困りの患者様は、ご相談だけでも結構ですのでどうか遠慮なくハートセンター循環器内科外来で日本不整脈心電学会認定不整脈専門医の外来をご受診下さい。また心房細動の患者様を診て頂いている近隣の先生方も、ご紹介を頂きましたら上記専門医が患者様に詳しくご説明申し上げますので、どうか遠慮なくご紹介を頂ければと存じます。